大阪高等裁判所 昭和49年(行コ)31号 判決 1976年3月31日
控訴人 横田仲二
被控訴人 岐阜南税務署長
訴訟代理人 宝金敏明 秋本靖 ほか二名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 <省略>
理由
当裁判所もまた控訴人の請求を失当と判断するものであり、その理由は次のとおり付加するほか原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。
一 控訴人の当審における主張一について。
本件香水袋を販売する殆どの場合これに購入者(銀行等)の商品に関する宣伝広告文が印刷されたカバー・ラベルを添付し、これがそのまま最終消費者(預金帳等と共に贈られた預金者ら顧客)の手に渡るものであるけれども、もともと本件香水袋は社会通念上の香水が有する携帯不便、芳香の短命という欠点を避けるため、ポリエチレンの小袋に香剤を吸収させたスポンジ片を封入し、ポリエチレンの通気性を利用して芳香を発するもので、ポケツト、ハンドバツク、ハンカチーフ、書籍に挟んで芳香を楽しみ所持者の品位を高めることを予定して製造されたものであり、カバー・ラベル自体は本件香水袋の容器包装であるに過ぎず、本件香水袋が他の商品等の宣伝広告に利用されるのも、これを受けとつた前記消費者の嗅覚を刺激し、これを嗅ぐ者に爽快感を生ぜしめるからであつて、右消費者は宣伝広告のためこれを所持するものではなく、化粧用として本件香水袋から発する芳香を楽しみ、携帯者の品位を美化することを目的として所持するものであり、これを購買した銀行等は右宣伝広告の手段として利用したにすぎないから、本件香水袋のもつ宣伝効果もあくまで附随的なものである。したがつて、本件香水袋をもつ前記本来の特性、用途からみて、これが課税物品たる香水に該当することは明らかであつて、香水紙や香水入り毛布のような本来の使用目的をそれぞれ有し、附随的に香りを楽しむことを目的とした物品と同一視することはできないことはいうまでもなく、また、控訴人の挙示する防虫用香袋その他の物品が非課税物品であるからといつて、本件物品を同類に扱い非課税物品としなければならない根拠は見出せない。さらに、物品税の本質が個々の物品の消費という事実に示される担税力に応じて課税される間接消費税であることは控訴人主張のとおりであるが、本件香水袋を銀行等が製造者と消費者との間に入つて、自らの宣伝広告に利用したからといつて、本件香水袋のもつ前記本来の特性、用途に消長を来たすべきいわれはないから、税の実質的負担者が銀行等であることを前提とする控訴人の主張も採用できない。
二 控訴人の当審における主張二について。
<証拠省略>を総合すれば、控訴人は本件香水袋が従来から一般にいわれる香水に用いられるのと同種の香料を配合し、同様の芳香を発する物品であり、携帯者の品位を高め、美化し、魅力を増さしめる効用を目的としている点で従来の香水と全く同様のものであり、ただ従来一般にいう香水と異なるのは芳香を徐々に発散させて長期間持続させ且つ携帯に便利にするため溶剤として揮発性の少い粘度の高い油状液プロピレン・グリコールを使い且つポリエチレンの通気性を利用してその小袋に香剤を吸収させたスポンジ片を封入した点にあることを十分に認識し、銀行等に販売するに当つても、長期間変香せず、芳香の持続する香水入りの袋或はフランス輸入香水として紹介し、パンフレツトを配布していたこと、香水は物品税の課税対象になることを認識していたことが認められ、これに反する証拠はない。
<証拠省略>の「物品税課税物品の解説書」中の化粧品の説明部分の記載に本件香水袋に該当するものがなかつたこと等から控訴人が本件香水袋が直ちに物品税の課税対象にならないとして申告を怠つたとしても、前認定の事実関係によれば、それは控訴人の速断による誤信に過ぎないと認めざるを得ない。国税通則法六六条一項本文所定の無申告加算税は、申告納税の実をあげるため、申告納税を怠つたものに対し制裁として課する附帯税であつて、同条一項ただし書にいう「期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な事由があると認められる場合」とは申告納税を怠つたものに対するこの制裁を課することが真に不当若しくは酷であるような事情をいうと解すべきものであるが、右のような事情認識のもとにあつた本件控訴人の場合はこれに該当するものではない。
してみると、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 斉藤平伍 仲西二郎 三井喜彦)